周辺症状(BPSD)

周辺症状(BPSD)とは

認知症では脳の神経細胞破壊によって直接起こる中核症状に加え、その中核症状によって不安や抑うつ、睡眠障害などの行動や心理症状(BPSD 周辺症状)を起こすことがあります。環境、性格、心理状態などの関与を受けるため、行動・心理症状(BPSD)には個人差が大きくなっています。
治療によって改善できるケースもありますし、適切な対応や工夫、リハビリテーションなどによってご本人や介護する方の負担を軽減できることもあります。

不安・抑うつ

認知機能の低下は生活への支障だけでなく、気持ちの落ち込みにもつながりやすく、抑うつ状態や不安を抱えることがよくあります。認知機能の低下によって意欲も低下しますし、不眠や食欲不振なども起こすため、うつ病と思って受診されて認知症が発見されることもあります。また、認知症になってからうつ病を併発することもあります。どのタイプの認知症でもうつ状態を起こしやすいのですが、レビー小体型認知症は特にうつ病の発症頻度が高いとされています。

徘徊

場所などがわからなくなる見当識障害やもの忘れといった記憶障害などの中核症状の影響や、ストレス・不安・寂しさなどが加わって、歩き回ってしまう徘徊を起こすことがあります。一人で出かけてしまうと脱水や事故に合うなどの危険性が高く、行方不明になってしまうケースもあるため注意が必要です。徘徊がはじまったら落ち着いた声で穏やかに話しかけ、無理に連れ帰らず気持ちをそらすようにしましょう。

弄便(ろうべん)

便をいじる、体や服、寝具、壁などに塗ってしまう症状で、認知症が進行してから現れます。こうした行動を起こす理由はいくつもありますが、主に便を認識できなくなったり、失禁の不快感などによって起こるとされています。
トイレで自然排泄ができると症状を起こしにくくなることがありますが、介護する側にとって負担がかなり大きい症状ですから、医師や介護スタッフなどに相談しましょう。

物盗られ妄想

認知症ではしまった場所を忘れるだけでなく、しまったという行為自体を忘れてしまいます。自分がどこかに置いた記憶がないため、盗まれたと勘違いしやすく、可能な存在である身近な方を疑ってしまいます。こうした物盗られ妄想は疑われた方にとっては腹立たしく悲しいものですが、疑うことは本人が自分に感じている不安や焦りの表現です。落ち着いた声で話しかけて、本人の話をしっかり聞いて、できれば本人が自分で探せるようにしましょう。
なお、ものをなくさない工夫をすることで物盗られ妄想を起こしにくくすることができます。使用頻度の高いものは透明で中のものが表から見えるケースなどに入れ、家の中でも常に持ち歩くようにすると見つけやすくなります。

せん妄

意識障害を起こして混乱した状態です。人や場所がわからない、幻覚が見える、興奮する、暴れる、暴言を吐くこともあります。脱水、感染症、睡眠不足、便秘、薬の副作用、環境の変化など、複数の要因が組み合わさってせん妄を起こすことがあり、原因がわからない場合もあります。きっかけとなる体調不良を起こさないよう、健康管理をしっかり行いましょう。

幻覚

実際にはないものが実在しているように見える幻視や、幻聴・幻味・幻臭・体感幻覚などを起こします。レビー小体型認知症では幻視が現れやすく、アルツハイマー型認知症では幻聴が起こりやすい傾向があります。
とてもリアルに感じられるため、頭ごなしに否定しないよう心がけてください。

暴力・暴言

認知症では判断力や理解力も低下するため、健常だった時には理性で抑えていた感情や衝動を抑えきれなくなって、不安や苛立ちをきっかけに暴言や暴力を起こすことがあります。こうした症状を起こす前には、イライラや不満が表情に表れることが多いため、そうした際に落ち着いた声で話しかけることで気持ち試がそれることもあります。

介護拒否

介護が必要な状態であるのにも関わらず、介護を拒否する状態です。介護の意味がわからなくなっている場合もあります。なにがどういやなのかを穏やかに聞き出してみてください。

失禁

加齢が進むと健常でも男性は前立腺肥大で、女性は内臓が落ちないように支えている骨盤底筋群のゆるみによる腹圧性尿失禁などによって失禁を起こしやすくなります。それ以外に認知症によって起こる失禁があり、それが機能性尿失禁です。
トイレに行くまでに時間がかかって間に合わない、ボタンを外せないなど、動作の低下によって起こることもありますし、認知機能低下によって尿意がわからない、トイレの場所がわからなくなった、排泄自体が認識できないなどによって失禁を起こすこともあります。生活リズムに合わせて誘導することで、改善できることもあります。

睡眠障害(不眠、昼夜逆転など)

加齢によって長く熟睡することは難しくなります。認知症では体内時計の調節がうまくできなくなって不眠や昼夜逆転を起こしやすくなります。夜間にしっかり眠れるようにすることは本人にとっても快適ですし、介護する方の負担も抑えられます。体内時計のリセットには朝日を浴びることが有効ですから、朝はカーテンを開けて外光を浴びる、昼間に活動するなどが有効です。

帰宅願望

自宅にいる場合にも「家に帰りたい」と訴えることもありますし、「生まれ育った家に帰りたい」というケースもあります。実際に外出してしまうこともあります。さまざまな理由で起こりますが、環境に不安があるなどによって帰宅願望を起こしていることもあります。理由を穏やかに尋ねてみると、意外なことやすぐに解決できることが原因になっていることもありますので、まずは落ち着いて話を聞いてください。

異食

認知症が進行した中期以降に現れることが多い症状です。食べ物かどうかの判断ができなくなり、体調不良やストレスなどが重なって生じます。電池や洗剤など、飲み込んでしまうと命の危険になるものもありますので、周囲にはできるだけものを置かないようにしましょう。異食を起こした場合、緊急受診や救急車を呼ぶ必要が生じることもあります。

認知症は中核症状及びBPSDにより御本人のみならず御家族様など介護者に対して大きな負担を強いる疾患です。当院ではそうした介護者の方に対してこころのケア(自費診療)を目的としてカウンセリングを設定する予定となっております。

 
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