統合失調症

統合失調症とは

統合失調症とは本人にとってはとても現実的に感じられる幻覚や妄想、意欲低下や感情表現の平板化をはじめとした多くの症状があり、急激に強い症状が出ることもあればゆっくり進行するケースもあるなど、経過にも個人差が大きい疾患です。思春期や若い時期に発症するケースが多く、100人に1人程度の発症頻度ですから決して特別な病気ではありません。思考・行動・感情を統合する能力が低下することで症状を起こしていると考えられていることから、統合失調症と呼ばれるようになっていますが、昔は精神分裂病と呼ばれていました。
10~20代で幻聴や妄想が現れ、病気と思わずに周囲との齟齬が生じて対人関係に苦手意識が生まれ、引きこもって社会性が低下してしまうといった経過が典型的ですが、適切な治療で改善が望めますし、半数以上の方が軽快しています。中長期の経過観察によって安定した状態を長く保てるケースも増えています。
病状の安定や再発を防止する治療をしっかり続けることが不可欠な病気ですが、そのためには統合失調症やその治療について、ご本人はもちろんご家族も正しく理解した上で、地道な治療をしっかり続けることが重要です。長く治療を続ける必要があり、その間には良い状態や悪い状態になることもありますが、治療を中断してしまうと深刻な状態になってしまうことが少なくありません。治療を生活にうまく組み込むことで無理をせず、気負うことなく治療を続けていきましょう。
当院には複数の精神保健指定医、精神科専門医が在籍しております。また福祉的なサポートや社会資源利用についてのアドバイスもきめ細かく行っていますので、安心してご相談ください。

統合失調症の原因

はっきりとした原因はまだわかっていませんが、いくつか有力な仮説があります。

脳の神経伝達物質であるドーパミン

脳の神経細胞は、ドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質が関与することで情報を伝えており、ドーパミンを活性化する薬剤の影響で統合失調症のような幻覚や妄想が起こることがわかっています。また、過度なストレスによってドーパミンが過剰に働いてしまうこともわかっています。こうしたことから、統合失調症の発症には過剰なドーパミンの働きが関与していると指摘されています。他にも神経伝達物質のグルタミン酸の関与を指摘する研究報告もされています。

ストレス・脆弱性仮説

遺伝、脳の器質的な問題、性格をはじめとした脆弱性に関わる要因があって、そこにストレスなどの環境的な問題が重なって発症するという考え方です。

その他

胎児期や出産の際の低酸素症など、多くの仮説があります。

統合失調症のタイプ

統合失調症のタイプさまざまな症状がありますし、経過にも個人差が大きいのですが、破瓜(はか)型・緊張型・妄想型に分けて考えることでわかりやすくなります。発症時期、症状、予後などによって大きく分けられた典型例であり、理解に役立つ目安ですから、これに当てはまらない場合もかなり多くなっています。

破瓜型(はか型)

10~20代に発病することが多く、統合失調症では発症の最も多いタイプです。感情・意欲・思考に障害が現れやすく、進行は遅いのですが症状が長く続く傾向があります。意欲が低下することで生活の変化や生活の乱れを起こし、会話や行動が支離滅裂になる、感情が平板化するなどの症状を起こすこともよくあります。

緊張型

20歳前後の発症が多く、幻覚や妄想、激しい興奮、周囲への反応が極端に低下する昏迷状態など強い症状を起こします。緊張症状として、同じ動作を繰り返したり、相手と同じ動作をしたりすることもあります。

妄想型

30歳前後の発症が多いのですが、10代後半で発症するケースもあります。統合失調症では症状が最も軽いとされていて、主に幻覚や妄想を起こし、これ以外の症状を起こすことはほとんどありません。ただし、幻覚や妄想が本人にとってはかなりリアルですから、病気と気付かないまま、さまざまな問題を起こすことがあります。

統合失調症の症状

症状は、陽性症状・陰性症状に分けられ、さらに認知障害を起こすこともあります。陽性症状には幻聴・幻視・幻臭や妄想があります。陰性症状は感情の平板化と意欲の低下によって起こるもので、消耗期や回復期に現れやすくなっています。認知障害はほとんどが認知機能の軽度な障害で、もの忘れや集中力低下によって日常生活に支障を生じ、それによって不安や自信の喪失を起こしてさらに失敗しやすくなることがあります。

陽性症状

  • ひとりごと・ひとり笑い
  • 監視や盗聴を心配する
  • 特に原因なく責められている・尾行されている・騙されていると思い込む
  • 他人から危害を加えられていると感じる
  • 命令する声が聞こえる
  • 自分の考えが他人にわかってしまうと思っている
  • 悪口を言われていると思い込む
  • 本や新聞に自分のことが書かれていると思っている
  • 幻聴・幻視・幻臭など、実際にはないものを感じる
  • 話の内容が突然飛躍する・支離滅裂になる
  • 子どものような言動をする
  • 極度に興奮する など

陰性症状

  • 引きこもりがちになる
  • 表情が乏しい
  • アイコンタクトが減る・視線を合わせない
  • 口数が減る・身振り手振りが減る
  • 言葉の抑揚がなくなる・言葉に感情がこもらない
  • 質問しても短い返事しかしない
  • 以前は夢中になったことに興味を示さない
  • 人間関係に無関心になる
  • 周囲への興味や関心がなくなる
  • 部屋が散らかる・片付かない
  • 身だしなみ、持ちものなどへの関心がなくなる
  • TPOに合わせた服装や化粧ができない
  • 身なりに構わなくなる・衛生に気を使わなくなる
  • 仕事や勉強、家事などへの意欲が低下する
  • 社会性の喪失 など

認知障害

  • 1度にいろいろなことを言われると理解が難しい
  • 数人で話していると話の筋がわからなくなる
  • 本を最後まで読めなくなる・単純作業も途中までしかできない
  • 指示されてもうまく進められない
  • 集中できない
  • 覚えたことを思い出せない
  • 大事なことで失敗して自信をなくし、いろいろなことが苦手になる など

統合失調症の症状や治療の経過

統合失調症の症状や治療の経過統合失調症は、経過の変化によって前兆・急性期・休息期・回復期・安定期に分けることができます。典型的な推移であり当てはまらないこともありますが、事前に理解しておくことで変化が起こっても慌てずに対応することができます。

前兆期

焦り、不安、感覚過敏、集中力の欠如、意欲低下、不眠、食欲不振、頭痛といった抑うつ状態などが現れはじめます。前兆期の方の初診では統合失調症という確定診断は難しいのですが、前兆期に専門医を受診することで高い治療効果が望めます。

急性期

統合失調症独特の症状が現れはじめ、陽性症状である幻覚や妄想が起こった場合には、周囲と話が合わなくなって日常生活に大きな悪影響を与えるケースもよくあります。また、前兆期の症状が強く出ることもあります。

休息期

幻覚や妄想などの陽性症状がいったん落ち着き、陰性症状である感情の平板化や意欲低下を起こします。この時期は不安定な状態ですから、ちょっとしたきっかけで陽性症状を起こして急性期に戻ることがあります。焦らず、諦めずに治療をしっかり続けることで長期的な回復を目指しましょう。

回復期

症状が落ち着いて、回復や安定に向かう時期です。症状がなくなると将来への不安なども感じやすくなりますが、あらかじめ回復期についてしっかり理解しておくことで穏やかに乗り切ることができます。

安定期

症状が安定する時期です。発症前の状態に戻ることもありますが、陰性症状が続いたり、陽性症状が多少残ることもあります。重要なのは、再度前兆期になってしまわないように、コントロールすることです。安定してからも適切な治療や経過観察は不可欠ですが、状態に合わせてある程度薬の処方を絞ることができます。慎重に経過を観察しながら、再発を防止するための治療をきちんと続けましょう。

統合失調症の治療

主に薬物療法と心理療法を用いて治療しています。心理療法では、対話を通じてお気持ちを支える支持療法やリハビリテーションなどを中心に行います。当院では臨床心理士が心理療法を行っていますので、ご希望があれば医師にお申し出ください。

薬物療法

特有の症状を抑える抗精神病薬を主に用いますが、症状や状態にきめ細かく合わせて処方しています。抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬、気分安定薬などを補助的に使用することで高い効果が得られるケースもあります。症状が緩和してきたら慎重に経過を管索しながら段階的な減薬を行います。ただし、安定期に入ってからも再発防止のためには薬物療法をある程度続ける必要があります。当院では、症状の緩和や解消、再発防止などに合わせた処方を行っており、トータルではできるだけ服薬する薬の量を抑えた治療を心がけています。

心理療法

患者様が臨床心理士との対話を通じて不安や心配を共有して気持ちを支え、一緒に解決法を考える支持療法が有効とされています。気持ちに対するサポートがあることで、新しい解決法を発見しやすくなります。また、何度も話題にすることで不安や心配の根本的な原因にアプローチできるようになり、気持ちも安定しやすくなります。

再発予防のために

いったん安定状態になっても、慎重な服薬や経過観察を続けないと再発しやすい傾向があります。安定期に治療を中断してしまうと、数年で60~80%が再発すると指摘されているため注意が必要です。また、安定期に入ってからの服薬量はかなり少なくしても十分な再発予防につながりやすいため、繰り返し発症した場合に比べても安定期の服薬を続ける方がトータルの服薬量も少なく抑えることができます。なによりも、再発は大きなストレスになりますし、人間関係にも悪影響を及ぼします。こうしたストレスを避けるためにも安定期の継続治療は重要です。
統合失調症は、症状が改善すると自己判断で薬をやめて再発を繰り返すことが多くなっています。減薬や休薬は医師の適切な管理によって行わなければ症状を起こしやすくなるだけで患者様にとっても心身への大きな負担になります。当院ではできるだけ減薬が可能になるよう心がけていますので、減薬したいと思った場合には、必ず医師に相談してください。

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